英語レッスン中に黙りこむ子どもたちに起きていること——「話す意欲(WTC)」の科学

英語のレッスンになると急に静かになる。家では英語の歌を口ずさんでいるのに、先生の前では一言も出てこない。知っているはずの単語なのに、聞かれると固まってしまう。

こういった場面に心当たりのある保護者の方は多いのではないでしょうか。

「やる気がないのかな」「恥ずかしがり屋だから仕方ない」と感じるかもしれません。しかし、この「沈黙」は、性格や意欲の問題ではなく、言語習得研究が長年注目してきた心理的なメカニズムによるものです。

今回は、MacIntyreらが提唱した「Willingness to Communicate(WTC)」という概念をもとに、子どもが英語を「話したがらない」現象の正体と、それを変えるための環境について解説します。


WTC(話す意欲)とは何か

WTC(Willingness to Communicate)は、1990年代にカナダの言語研究者ピーター・マッキンタイア(Peter MacIntyre)らによって体系化された概念で、「話そうと思えば話せる状況において、実際に話そうとする意欲」を指します。

重要なのは、WTCが固定的な性格特性ではなく、状況によって常に変動するものだという点です。

同じ子どもでも、友達とゲームをするときは積極的に英語を使うのに、先生に直接問いかけられた途端に黙ってしまう——こういった場面の違いは、WTCの変動によって説明されます。「英語が話せるかどうか」ではなく、「この場で話そうという気持ちになれるかどうか」が、実際の発話を左右しているのです。


WTCを下げる要因

MacIntyreらの研究では、WTCに影響を与える要因がいくつか特定されています。子どもの英語学習の文脈に引きつけて整理すると、主に以下の3つが重要です。

①コミュニケーション不安(Communication Anxiety)

「間違えたらどうしよう」「変な発音だと思われたくない」という不安が高いと、知っている表現でも口から出にくくなります。特に、他の子どもたちの前で発言する場面や、大人から直接問いかけられる場面でこの不安は強まります。

言語習得の分野では、このような情意的な壁が習得を妨げることはよく知られており、Krashenの「情意フィルター仮説」とも深く重なります。

②自己評価(Perceived Competence)

実際の語学力とは別に、「自分は英語が話せる」という感覚(自己効力感)がWTCに大きく影響します。たとえ正確な英語を知っていても、「うまく言えないかもしれない」という自己評価が低ければ、WTCは下がります。

逆に言えば、実力がついていなくても、「この場なら話していい」という安心感があるだけでWTCは上がります。

③対人関係・場の雰囲気

信頼できる相手かどうか、失敗を笑われない雰囲気かどうかは、WTCに直接影響します。はじめて会う先生の前、緊張したレッスン環境では、WTCが著しく低下します。子どもが「黙りこむ」のは、多くの場合この要因が大きく関わっています。


なぜグループレッスンでWTCが下がりやすいか

複数の子どもがいる環境では、前述の3つの要因が重なりやすくなります。

他の子どもに聞かれているという緊張、間違えたときの恥ずかしさ、自分だけが答えられないかもしれないという不安——これらがWTCを下げ、沈黙につながります。

「積極的に参加している子」と「黙って聞いている子」の差は、英語の能力の差ではなく、その場でのWTCの差であることがほとんどです。能力があっても話さない子は、話す気持ちになれない環境にいる、というのが実態です。


WTCを育てる環境とは

研究が示すWTCを高める条件は、次のようにまとめられます。

失敗が受け入れられる安心感 間違えても指摘されない、笑われないという安心感があるとき、子どもは自然と話し始めます。「試してみていい」という場の雰囲気が、WTCの土台です。

信頼できる対人関係 話し相手に対する信頼と親しみは、WTCを大きく引き上げます。週1回のレッスンであっても、継続的に同じ講師と関わり続けることで、子どものWTCは着実に育まれていきます。

「話せた」という小さな経験の積み重ね 一度でも「英語で言えた」「伝わった」という手応えを得ると、次に話そうとする意欲が生まれます。このサイクルが回り始めると、WTCは自律的に高まっていきます。


ビバイの指導とWTC

ビバイが大切にしているマンツーマンの指導形式、バイリンガル講師との継続的な関係づくり、そして「まず使ってみることを認める」という姿勢は、WTCを育てるための条件と深く一致しています。

子どもが英語を習い始めて最初にすべきことは、語彙や文法を正確に教えることではなく、「この場なら英語を使っていい」という感覚を育てることです。その土台があってはじめて、言語知識は力として機能し始めます。

年齢とWTC——幼児期に始める意味

WTCには、年齢との関係も見逃せません。

幼児期の子どもは、一般的に間違いへの意識が低く、失敗への恐れが相対的に小さい時期です。周囲の目を気にするよりも「やってみたい」という衝動の方が強く、WTCが自然と高い状態にある時期とも言えます。

ところが、小学校中学年以降になると、「正確に言えないなら言わない方がいい」という自己検閲が生まれ始めます。これは認知の発達として自然なことですが、英語学習においてはWTCを下げる方向に働きます。

つまり、WTCが高い幼児期に、「英語を話すこと=楽しいもの・安心できるもの」という経験を積んでおくことが、その後の学習姿勢に大きく影響するということです。英語を早い時期から始める意義は、語彙や発音の習得だけでなく、この「話すことへの前向きな態度」を育てる点にもあります。

保護者の方へ——日常でWTCを育てるために

WTCは、レッスンの中だけで育つものではありません。家庭での関わり方も、大きく影響します。

お子さんが英語で何かを言ったとき、内容や正確さより先に「言えたね」「英語で言ってくれたね」と反応することが、WTCの土台を育てます。また、結果(正しく言えたか)よりプロセス(話そうとしたこと)を評価する姿勢が、次に話してみようとする意欲を支えます。

「うちの子、英語のレッスンでは話さなくて」とお感じの保護者の方は、まず環境が合っているかどうかを見直すきっかけにしていただければと思います。

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